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三木の吉川。
鳥の鳴く声だけが響くような、
穏やかで閑雅な風情の山里で
築200年の茅葺古民家に出逢った坂口さんが
そこで地元の野菜や食材での料理を供するお店をしようと決められて
改装の設計を依頼してこられました。
この土地から産まれる、
一見なにげないようなものことの
美しさや魅力を開いてくれる場所になりそうです。
周囲には茅葺民家がいくつか残っています。
この家もその中にあって
草屋根が周囲の環境と調和した景観をつくっています。
この家自体は
30年ほど前に購入した先の持ち主の方が
かなり手を加えて改修している様子がうかがえます。
元の姿からは大分変わっているような印象も受けます。
それは一つには
古民家の力強い部分を前面に引き出す改修で、
目に付く主要な部材を大きな寸法のものに差し替えたり、
あるいは付け加えたり、
又その材には、例えばケヤキを多用して、
古民家独特の木組みの空間を、
逞しく豪勢な印象にしようという意図に基づいた
操作があったように見えます。
中には鉄のフードが鎖で吊り下げられた囲炉裏があり、
男たちが火を囲んで酒を酌み交わしている光景がすぐに思い浮かびます。
一方では一間を改装した茶室もあります。
荒々しい野趣とある種の風雅さ、高貴さ。とても男性的。
歌舞伎の見得を切ったような空間。
そしてどこか、日常を離れるような、
アソビの場としての古民家。
初めてこの家に伺ったときに、
その場の雰囲気を、どこか懐かしさと
そして又どこか違和感とともに感じました。
というのは、かつて、
若かりし頃に勤めていた設計事務所の所長が
同じくらいの古さの茅葺民家を山の中に持っていて、
そこに1年半くらい住む機会があったのですが、
そこを所長や事務所関係で使うときの意識や気分に
先述のものと通底するところがあったからです。
力強い架構や材、場の印象にもどこか共通するものがありました。
勿論、別邸だったので、
街中での場との対比としてそのような部分が
浮かび上がってくるのもわかります。
ただ、古民家の中に見出して引き出しそうとした部分は
どこか共通していて、
そこから日常を離れた、ある種の精神的な飛翔を
求めようとしていたような気がします。
確かに面白い取り組みであり、
方向性だったとは思うのですが、
今私が感じ求めているものとは差異があるのを感じます。
数少ない例から
一般化は出来ないかもしれませんが、
当時、古民家の改修に関わった人たちは、
古民家的な日常の生活が経験としてそれほど遠いものではなく、
そのために何か特別な印象や強さのようなものを魅力として
引き出そうと、あるいは付け加えようとしたのかもしれない、
という気もします。
時代背景も何らかの影響を与えていたのかもしれませんが・・。
同時にそれは、
いとなみとしての日々のくらしから
離れ(ての跳躍をし)ようとするようなベクトルも
(無意識にも意識的にも)含んでいたような感じがあります。
今見ればどこか違和感を感じるのはその辺りです。
日々のいとなみがそのまま
美しく ここちよく 調和を持って いとなまれるような場をつくること。
そのことによって、地に足をつけたままで高められること。
そんなことを想って今、設計にとりくんでいるからかもしれません。
例えば、
いわゆる家事といわれるような日々のいとなみが
実はいのちのいとなみを日々運んでいくそのものの行為なんだということを
子供が生まれてからの日々の体験を通して実感したのですが、
人がつくりだしてきたものも全てそのいとなみを内側からかたちにしたもの、
ということをそのときにあらためて実感しました。
そして建築もそこから離れるものではない。
なので、今は
先述のようなベクトルとはちょうど逆向きのようなベクトルで
設計に取り組んでいるところがあります。
ですが、例えば古民家に取り組むときの姿勢として
先述のような先人の取り組みがあったからこそ
今の取り組みが具体的に見えてくるところもあり、
その意味で、先の取り組みへの単なる否定ではなく、
これもまた別の方向へ発展していく、
継承のひとつのありかたなのだとも思います。
かつてはそうしたものに
魅かれ、憧れた自分があったのも事実ですし。
ところで
坂口さんがここでしようとしているのは
日々のいとなみとしてのくらしの延長線上にあるお店であり、
それは今この場がまとっている雰囲気とは
これまで述べたように、逆のベクトルなのだということ。
なので付け加えられたものを注意深く見分けながら、
どこか元の姿に戻していくような、
日々のいとなみから離れたような感のある民家を
もう一度日々のいとなみに立ち返らせるような取り組みに
この改修はなっていくだろうということを、
ここを見ていて感じました。坂口さんも同感でした。
原型の保存のために古い姿に回帰するというわけではありません。
そのことには
外から付加されたイメージの空間をつくるために
なされた無理をあらためて、
家をある意味健やかな状態に戻すようなことも含まれます。
調査していて見えてきたこの家の現状、
それをあらためて新たな場をつくるために、
やはりまずこの茅葺屋根をどのように直すべきか、
それが具体的な改修方針の大きな分かれ目になりそうだ
ということが見えてきたので、
改修工事を依頼する予定の
地元の工務店・あかい工房さんと
同じく地元の茅葺屋根職人さんのくさかんむりさんに
茅葺屋根を一度診てもらうことにしました。
(つづく)