先日、事務所でのスタッフ募集のお知らせをしました。
変則的な募集のように見えることと思いますので、
少し補足的な説明を追記しておきます。
現在では、一般的に設計の仕事は
ほとんどCADを使って図面がひかれています。
もともと、設計という行為は、
ものづくりに関わる仕事の中でも
身体行為を通じてそのものを直接造る訳ではないため、
頭脳だけの発想になりやすく、観念的になったり、
いわゆるバーチャルになりやすい要素を多く抱えています。
手を使って図面を描くことがかろうじて、
設計作業の中では数少ない身体を使った行為だったのですが、
社会的な流れの中で、手描き図面による設計では
周囲と合わない状況になってきています。
CADでの製図は手で直接行う行為より間接的になっていることと合わせて、
そのシステムに製図行為自体がかなり拘束されているのですが、
発想する際の意識や思考も、
その影響を無意識のうちに受けていると思います。
作業時間短縮など、合理化された部分はかなりありますが、
その分、気づかぬ間に失ったものも大きいように思います。
作業はバーチャルになっても、
設計という行為を通じて、造り上げる建築というもの自体は
身体を通して造り、使い、体験するものであり、
そのことに変わりはありません。
そこで起こることを想像する為には、
体験と身体感覚やそこに基づく感性が必要なことも変わりありません。
私自身は設計を始めた時期が
ちょうどまだ手描きがメインの頃だったため、
今でも基本的には手描きで図面を描きます。
CADで製図すると操作に意識が削がれる為か、
考えていなかったり感じられないままになっている部分が
沢山あることに気がついて、手描きに戻しました。
しかし、社会的には今後益々手描きでは合わない状況に
なっていくことと容易に想像されます。
そこでスタッフにはCADを使って作業をしてもらうことになるのですが、
ある意味、身体と頭の使い方がアンバランスな状態で
設計行為に関わっていくことになります。
自覚していないと気がつけないかもしれませんが・・。
実際、事務所の中でデスクに座り、パソコンでの作業がメインの環境では
設計に必要な生活経験を経ることや、
身体感覚や感性を磨く機会はかなり少なくなることと思います。
今回、週の半分を身体を使って
やおや ワンドロップ さんで働く形にしているのは
その部分を補うことが必要だと考えているからです。
たとえ仕事の内容が違っていても、
身体と頭脳をバランス良く使って働く機会を持つことは
調和のとれた設計を発想する上でも役立つことでしょう。
私自身、事務所のかけだしのころは魚屋で働いたりもしました。
当時は主に金銭的な理由からで、
先述のようなことを主たる目的としていた訳でもなかったのですが、
その体験は色々な意味で生きているように思います。
又、楽器を演奏することや、色々な身体メソッドを学んでいることも
体験としての身体感覚を磨くことに役立っていて、
それらが設計時に大きな働きをしていることを実感しています。
もうひとつ、
やおや ワンドロップ さんで働く意味は
野菜という、いのちに直接触れる仕事の体験を積んでほしいという
想いもあります。
身体行為を通してただ働くだけではなく、
それがこころに基づいた行いになっていることが大切であることを
そこでは実際に体験することでしょう。
それは設計においても通ずる根本的なことです。
ただ設計の中ではなかなか見えにくく、わかりにくいかもしれません。
相手の反応が即座に見えない状況の中で仕事をしているからです。
しかし、その状態にある時はきっと仕事が楽しいはずです。
そのとき、今を生きることが出来ているからです。
このことは設計ばかりでなく、
生きていくどんな時にも通じる基本的なことだと思います。
しかし、人は意識していないと、
疲れたとか面倒くさいとか様々な理由でそのことを怠ってしまいます。
ですが、意識していればそれを改善していくことができるでしょう。
『仕事とは愛を目に見える形にすること』
(アイリーン・キャディ『こころの扉を開く』5/23より)
ということを常に忘れずに仕事をしたいと思います。
そのような仕事によって、私たちは関わる物事を再編しているのです。
世界がそうやって調っていくのであれば、
そこに参加したいと思いませんか。
今回の募集形態の根底にはこのような想いがあります。
そのことを汲み取って、共感して
私たちと一緒に働いていきたい、という方の応募を待っています。
森田建築設計事務所 森田徹