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古い家を直したいという相談を受けてそのお宅に伺いました。
古さを感じさせる正面。
低めの2階軒高の生み出すプロポーションが
慎ましやかな印象で好ましく感じます。
瓦葺平入りの農家らしき造り。築100年ほどになると聞きました。
壁面から外にはねだした丸太梁が、
半間ほどの出の庇軒を受けて、格子窓の前に日影を作っています。
家の前にはかつて作業場であっただろう広めの庭があります。
日差しを避け、作業の合間にこの軒先で汗をぬぐいながら
あれこれ話している昔の人たちの姿が見えるようです・・
玄関土間の奥、誰かが井戸に水を汲みに行って・・
土間のひんやりした空気が一瞬、外の暑さを忘れさせます・・・。
いつの日にかあったかもしれない、そんな光景、
だれかの感じた印象が蘇るような・・。
家の前の道も細くて、往時を偲ばせる雰囲気が
そこはかとなく漂っています。
車が通りにくいので今ではどこかしら厄介者のような扱いですが、
かつてはこれでも十分だったのでしょう。
周りにも古い家が並んでいて、それぞれに相応に、
大切に使われている様子が見受けられます。
玄関土間を見上げると、梁組みが頼もしく、
棟の上には煙出しがあります。
小屋裏の飴色の煤竹の表面の曲線の上を
光が優しく撫でていきます。
人の日々の営みと歳月が作った美しさ。
直す際にはこれは活かしたいですが、
屋根下地が傷んでそうなのでこのまま残すのは難しいでしょうか・・。
その奥には厨房土間が続いて、
今もタイル貼りのおくどさんが残っていました。
長年顧みられなかったことで返って
そのままの形が残ったようです。
手を入れたらまだ使えるかもしれません。
その奥には板石で井筒を組んだ井戸がありました。
『火と水』の場所がそのまま残っているのは
考えようによっては貴重なことです。
新しい暮らしの中でも生かせたら、と考えます。
きれいに整えて、年に一度でも家族が集い、
ここを使って、米を蒸し、餅つきでもできたら、
人も家も大きな喜びを感じられることでしょう・・。
裏に廻ると少しずつ朽ち始めた土蔵が建っていました。
母屋の屋根もあちこち傷んでいます。健気に耐えてはいますが、
早い目に手を入れる必要がありそうです・・。
あちこちで、この家を一体に結び付けている結び目が
綻びかけてきているようですが、今もここに住まう人の為に、
家はまだそのお役目を終わらそうとはしていないようです・・。
座敷に集まって、ご家族の方々の話を伺います。
この家を直して住みたいと言う意見。
ここでの思い出や、雰囲気を引き継ぎたい。
個室の沢山ある家より、一続きになっていて、
皆で集まれる場所のある田の字型のオープンな間取りが
これからの暮らしに合う。
地震には問題なく直したい。・・。
新しく建替えたいと言う意見。
この家を直しても結構な費用がかかるなら、
新しく建物を建てたほうが合理的。敷地内の配置も変えられる。・・。
実はまだご家族の間で、方向がまとまってはいませんでした。
しかし、それぞれの意見の出てくる根本になっている部分に
目を向けると、それぞれの思いが垣間見えてきます。
そこには世代的な背景や価値観も見えますし、
家や家族、暮らしや人生へのそれぞれの想いもこめられています。
まずは、思い残すことのないように、
話し合って、それぞれがそれぞれを尊重しつつ
お互いの思いを理解しあうことから、でしょうか。
それがどこから来ているのかを見つけだしていく過程は、
楽なものではないかもしれませんが、その部分を整理して
折り合いをつけていくことが、
物理的に家をどのようにするのかという方向性を
見出していくことにもなります。
家族の思いを整理すること。
家を直す時期が来たということは、
実はそのことが必要な時期が来ている、とも言えるのかもしれません。
思いの綻びや縺れを繕いなおせたら、
家のあるべき姿も見えてくることでしょう。