寿ぎ演奏家の長根さんに誘われて富士山に登ることになった。
朝集合、バスで富士山5合目に夕方到着。
そこから夜中12時までかけて7合目まで登り、
山小屋で2時間の仮眠後、再び登山。
山頂へ向かい、早朝5時過ぎ頃の
ご来光を拝むと言うツアーだ。
参加者は我々のグループ9名を含めて総勢47名。
30代以下と熟年世代が半々か。女性の方が多い。
富士山の麓から、森の中を抜けて5合目へ向かう。
植生が次第に変わって行く。松と雑木の林に次第に白樺が混じり出して
高山に来た事を実感する。
登山開始点の5合目はちょうどこのような林の終わる地点でもある。
ベテランの強力さんが我々のグループを先導してくれる。
富士山を知り尽くした頼もしい印象。
最後の林を抜けると、荒涼とした黒い岩と砂の世界になった。
暮れかけた山道を、強力さんの作るペースに合わせて
ゆっくりゆっくりと登る。細かな雨が降って来たのでカッパを着た。
夜と霧で周りの景色は次第に見えなくなっていく。
息を乱さないように、ヨガで習った呼吸法で登る。
登山の間、この呼吸法で登ってみようと決めていた。
途中ぽつぽつと見える山小屋の明かりを目標に、
何度も休憩をとりながら
高山に体を慣らしつつ、歩を進めていく。
入ってくる情報が日常と比べて極端に少ないから、
自然に今している行為、『歩く+呼吸』に意識が集中していく。
すると、今置かれている状況、
気温も低くなって来たし、雨も降っているし、登り道だし、
という諸々が、自分で嫌だな、と思わなければ、
そうしたことは嫌な事でも不快でもない、という事実に気がついた。
今までの経験ではこういう状態を
不快とかしんどいといったな・・という具合に
思いがぽつぽつと湧き上がってくるが、
それにとらわれず、目の前を流して行く感じ。
これはまさにヨガの瞑想時に先生が言っている言葉通りだ!
知っててよかった、有り難い。体験出来てうれしい、などと
肯定的な想いでいると、この状況も楽しく感じられてきて、
気がつけば7合目の山小屋に辿り着いていた。
予想外に全く疲れていない。歩きながらのメディテーション。
とても面白い経験だった。
すでに日本で一番高い地点に立っている。
雨がやんで下に街の夜景が見える。東京の明かりも見えた。
仮眠後、再登山。
さっきより更に気温は低い。山頂は零度ほどだそうだ。
最後の山小屋でめいめい温かなもの、みそ汁やお汁粉を食べる。
ここまでで、数名がリタイア。無理する事はない。お疲れさま。
ここを出ると目標になる明かりは無くなる。
新月の夜、雨の中を進んでいく。
強い風で体を煽られ、とっさに身を低くして岩をつかむこともある。
呼吸法も続けていたが、次第に集中力も途切れがちになって、
やがて猛烈な睡魔がやってきた。
夢と現の曖昧な境を歩いている。周りの皆も疲れて来ているようだ。
9合目、山頂を目前にしたこのあたりが一番辛かった。
それがピークに達した頃、周囲が次第に薄明るくなっているのに気づく。
夜が明け始めた。黒飴で目が覚めて、再び山頂を目指す。
濃い霧の中、ぼんやりと鳥居が見え、山頂にたどり着いた。
雲のため、ご来光は拝めなかった。
またおいで、ということだろう。
山頂の神社や小屋は軒を低くして壁を石積みで覆っている。
強風に耐える為の構え。ここでは自然と人間がその本来の
大きさ、関係で存在しているように思える。
山頂に立っても富士山制覇、というような感慨は全く出てこなかった。
下りは広い砂地の斜面。雲海の合間から次第に緑が近づいてくる。
晴れて来て下りるにつれ、気温も上がって行く。
その変化して行く具合が丁度よく、下界に戻して行ってくれる。
よく出来た映画や物語よりも、
色々な事が経験出来る現実の富士登山は面白かった。
また登りたいと思う。